はじめに
マイカーをお持ちの方で、ある日突然、エンジンが掛からなくなったことはないでしょうか?またアイドリングストップ車の場合は最近アイドリングストップしなくなったと感じたことはないでしょうか?
エンジンが掛からない不具合は様々な要因が考えられますが、最も多い要因の一つとしてバッテリー上がりがあります。自動車のバッテリーは12Vの鉛蓄電池が採用されており、このバッテリーは消耗品です。定期的な交換を心掛けないとエンジンが掛からない不具合につながります。
バッテリー交換は古いバッテリーを取り外し、新しいバッテリーに交換するだけと安易に考えている方が非常に多いですが、昨今のコンピューター制御されている車両やアイドリングストップ機能が付帯した車両の場合は特に注意が必要です。
バッテリー交換作業中のミスにより車両のコンピューターを故障させてしまったり、バックアップ電源を接続せずにバッテリーを切り離してエンジン制御の初期値をリセットさせてしまったり、アイドリングストップ機能が付帯している車両にも関わらずバッテリー交換のみで完了してしまっていると本来の車両性能が発揮できなくなります。
そこで今回は、バッテリー交換方法についてトヨタ HARRIER ハリアー DBA-ZSU60Wを用いて自動車整備士である私が誰でも理解しやすいように実車の写真を交えながら徹底的に解説します。
さらに、アイドリングストップ車のバッテリー交換後に実施する電流積算値初期化についても実際の初期化画面も交えながら解説していますので初期化がどのような作業なのか?についても詳しく理解いただけます。
また、記事の最後には診断機を持っていないオーナーが自身でバッテリーを交換する際にオススメのやり方について教えます。
バッテリー交換は”基本の考え方は車種が違っても同じ“ですので、同じ車種をお乗りのオーナーはもちろん、これから自分でバッテリーを交換したい!と検討されているオーナーにとっても有料級の情報になると思います。
この記事をご覧になりご自身でバッテリーの交換に挑戦される方が一人でも増えれば幸いです。
車両情報
・車種名称:TOYOTA
・型式:DBA-ZSU60W-ANXGP-S
・原動機型式:3ZR-FAE
・総排気量又は定格出力:1986mL
・燃料の種類:ガソリン
・ボディカラー:ブラック(202)
・グレード:プレミアム メタルアンドレザーパッケージ
・初度登録年月:2019年(令和元年)9月
購入部品
今回はBOSCH製のHightec Premium HTP-Q-85/115D23L を準備しました。ちなみにトヨタディーラーでバッテリー交換を依頼した場合は交換工賃込みで約6万円〜と非常に高額です。
BOSCH以外の選択肢でオススメはPanasonic caos アイドリングストップ車用N-Q105/A4です。
ちなみに搭載されている純正バッテリーの仕様はPanasonic Q-55 20HR 60Ah CCA 320Aです。
バッテリー交換におけるワンポイント
バッテリーターミナル部分の錆や腐食の除去方法について
バッテリーターミナル部分に発生した青い粉は『緑青(ろくしょう)』と呼ばれているもので、バッテリー内で発生したガスが漏れ出し鉛製のターミナルと反応して結晶化したものです。 簡単に緑青を除去する方法は80℃以上の熱湯を直接、バッテリーターミナルに注ぐと簡単に除去できます。
サージとは
サージとはバッテリー交換時やブースターケーブル接続時に発生する危険な高電圧スパークのことで、サージが原因で車両側のコンピューターやナビゲーションが稀に故障します。それらを吸収して車両の電子機器を保護する商品がサージプロテクターです。
今回私が使用したサージプロテクターはJTC製のサージプロテクター JTC4137です。
バックアップ電源とは
最近の車両はほぼ全てがコンピューターによって制御されています。バッテリー交換作業の際に完全に車両からバッテリーを切り離してしまうとエンジンコントロール制御の学習値が消去されたりカーナビゲーションがロックされて解除するにはパスワードが必要になったりと何かと不具合が発生します。
そうならないためにバッテリー交換時に交換するバッテリー以外から電源を供給することをバックアップ電源を取ると言います。バックアップ電源の取り方には様々な方法がありますが今回は安定化電源からバックアップ電源を供給する方法について解説します。
車種によってはOBD経由ではバックアップ電源が供給できない車種もありますので今回の方法がより網羅性が高いと思いますのでこちらを解説します。
ターミナルの脱着作業のルールについて
ターミナルの脱着作業には次の鉄則があります。それは”マイナスから始まりマイナスで終わる”です。
つまり、古いバッテリーのターミナルは①マイナスターミナル、②プラスターミナルの順に取り外し、新しいバッテリーのターミナルは③プラスターミナル、④マイナスターミナルの順に取り付けます。
電流積算値初期化とは
アイドリングストップ機能付きの車両においてバッテリーを交換した場合は”電流積算値初期化”作業が必要です。
理由はバッテリーを新品に交換しても電流積算値初期化を行わないと車両側のECU(エンジンコントロールユニット)がバッテリーが新しくなったことを認識できないからです。
アイドリングストップ機能付きの車両はアイドリングをストップさせるための条件を細かく指定しておりバッテリーの劣化もその一要因となっています。バッテリーが劣化した状態でアイドリングをストップさせてしまった場合、再始動できない可能性がありますのでバッテリーが劣化した状態のまま乗り続けていると次第にアイドリングストップしなくなります。
具体的には車両側ECUが交換前のバッテリーデータ(電流積算値)を記憶しており、電流積算値のリセットを行い、バッテリー劣化判定を正常に戻す必要があります。
作業紹介
ハリアーのバッテリーはエンジンルーム内の助手席側にレイアウトされています。
バッテリーステー取り外し
2面幅が10mmのセミディープソケットを使用してバッテリー側のバッテリーステー固定ナットを緩めて取り外します。
2面幅が10mmの車両側のバッテリーステー固定ボルトは作業スペースが狭いので、ギアラチェットを使用して緩めます。
ボルトが固着してなかなか緩めることが出来ない場合は全長が長いロングタイプのギアラチェットを使用すると簡単に緩めることができます。
ボルトが外せましたら車両からバッテリーステーを取り外します。
バッテリーターミナル緑青の除去
バッテリーターミナルに発生している緑青(ろくしょう)を除去します。ウエスで養生し熱湯を端子部分に注ぎ除去します。除去後はサビ防止のためにターミナル部に注油しておきましょう。
サージプロテクター取付
サージ電圧によるコンピューターの故障を防ぐために、JTC サージプロテクター JTC4137をバッテリーターミナルへ取り付けます。
取付はJTC4137の+側(赤色)ワニ口を車両のバッテリーターミナルの+側に接続し、次に−側(黒色)ワニ口を車両のバッテリーターミナルの−側に接続します。JTC4137の回路確認用の緑色LEDが点灯すれば接続はOKです。
バックアップ電源の接続
バッテリーを車両から取り外す前にバックアップ電源を接続します。ナビゲーションのパスワードロックや、走行距離の履歴、各種設定をリセットしないようにするために、バックアップ電源を接続します。
バッテリー交換時にバックアップ電源が外れてしまわないようにターミナルとターミナル固定ナットの間にバックアップ電源の端子を挟んでナットで固定します。なお、バッテリーターミナルは二面幅が10mmのメガネレンチ等を使用してターミナル固定ナットを緩めます。
なお、バックアップ電源は+側(赤色)を車両側のバッテリーの+側(赤色)ターミナルに接続し、次に−側(黒色)を車両側のバッテリーの−側(黒色)ターミナルに接続します。
古いバッテリーの取り外し
バックアップ電源の接続状態を確認しながら、古いバッテリーのターミナルを取り外し、古いバッテリーを車両から取り外します。その際は、取り外したプラスターミナルが車両のボディと干渉しないように手袋等で養生します。
バッテリー新旧比較
バッテリーを車両から取り出し、新旧のバッテリーを比較します。取り出す際にバッテリーの重さに注意しましょう。
バッテリートレー取り外し・清掃
新しいバッテリーを車両に搭載する前にバッテリートレイを取り外し清掃します。バッテリートレイは手で持ち上げれば簡単に取り外せます。
バッテリートレイの向きと位置を確認し車両に搭載します。
新バッテリーを車両に搭載する
新バッテリーを車両に搭載します。搭載時に車両側ターミナルに干渉しないように気をつけて搭載しましょう。バッテリーターミナルをプラス端子→マイナス端子の順に取り付けます。
サージプロテクターを取り外します。取り外しは取付と逆の手順で実施します。
バッテリー端子にターミナルを二面幅が10mmのギアレンチを使用して固定します。ターミナル部分の締め付けトルク値は規定されていますのでトルク管理をしましょう。締め過ぎ注意です。
バッテリーステー取付
バッテリーステーを取り外しと逆の手順で取り付けプラスターミナルのカバーを取り付けます。
新しいバッテリーが車両に搭載できました。交換作業は以上で完了です。
電流積算値初期化
故障診断機を使用して【電流積算値初期化】を行います。今回はSnap-onのMTG2000 汎用機を用いて解説します。診断機を接続し車種を選択し”診断”を選択します。
ちなみに電流積算値初期化とはECM(エンジンコントロールモジュール)が記憶している古いバッテリーの情報(電圧や容量、これまでに行なったアイドリングストップの回数)をリセットする作業です。この作業を実施しないと新しいバッテリーに交換しても車両側が認識できないままの状態に陥ります。バッテリー交換後は必ず”電流積算値初期化”を実施しましょう。
”作業サポート”を選択します。
”ストップ&スタート”を選択します。
”電流積算値初期化”を選択します。
イグニッション ONを確認し、ENTERを押します。
初期化が自動的に完了します。
アイドリングストップ機能が付いた車両のバッテリーの充電、または交換を行なった場合は本作業の実施が必須です。
最後に
いかがだったでしょうか?アイドリングストップ機能が付いた車両のバッテリーを交換した場合は、必ず電流積算値初期化が必要です。
カー用品店などでバッテリー交換を依頼した場合は、初期化しましたか?と確認することをオススメします。(なお、正規ディーラーではメーカー指定の診断機を使用していますので交換後の実施は”当たり前”ですので不問です)
また、オーナー自身でバッテリー交換したけど、診断機がなく電流積算値初期化できない!とお困りの方は正規ディーラーに電流積算値初期化だけ依頼しましょう。別途、約5千円ほどの費用は掛かりますがバッテリー交換作業を全て依頼するよりは遥かにコストカットできますので相談してみましょう。
バッテリーは消耗品であり定期的な交換が必須です。出先でバッテリーが劣化してエンジンが掛らない!なんてトラブルに陥る前に交換をオススメします。
なお、国産車だけでなく欧州車(MINI)のバッテリー交換記事についても記載しています。是非ともご覧ください。
最後までご覧頂き、ありがとうございました。車いじりの参考になれば幸いです。コメントやお問合せもお待ちしております。コメントは記事の最下段にある【コメントを書き込む】までお願いします。また、YouTubeも公開しています。併せてご覧頂き、”チャンネル登録”、”高評価”もよろしくお願いいたします。YouTubeリンクはこちら
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