【有料級】意外と知らない”トルク”の話 ”軸力”と”トルク”とは

整備ノウハウ

はじめに

4月から新入社員が入社してきて『先輩、トルクって何ですか?』そう聞かれて『自分で調べろ!』と回答した人も多いのではないでしょうか?意外と知らないトルクについて工業大学で学んできた知識を活かして分かりやすく説明してみたいと思います。



軸力とトルクの関係

ねじで締め付ける目的は、物体と物体とを動かなくして固定することですが、この時の固定する力を、軸力(じくりょく)といいます。”トルク”ではありません。言い換えると、ねじが下側のナットを締めていくことで引っ張られ、その引っ張られる力に対して”戻ろうとする力”が生まれます。これが物体と物体を固定する軸力です。

軸力とトルクの関係
画像引用元:東日トルクハンドブック Vol.8

本来、締付の管理としては”軸力管理”を行いたいのですが、軸力を直接測定するにはひずみゲージを用いたりと測定がとても困難なため、代用特性として簡単に測定できるトルク管理をしています

軸力管理はコストが掛かるため代用特性としてトルク管理をしている



トルク法と回転角法について

締付方法にはトルク法や回転角法、こう配法、測伸法、加力法、加熱法がありますがここでは自動車整備でよく使用されるトルク法回転角法について説明します。

トルク法:締め付ける際、ねじを回すトルク値で締付を管理する方法
     →広く一般的に使用されており、『締付トルク値=48N・m』のイメージ。
・管理や作業が容易にできる。
・ボルトの長さによってトルク値が変化しないため標準化ができる。
・軸力のバラツキ巾が大きくねじの効率が低くなる。


 

回転角法:ねじが着座してから、ねじを回す角度で締付を管理する方法
・塑性域(そせいいき)での締付のため軸力のバラツキが少なく作業が簡単にできる。
・降伏点を超えて締付ているのでボルトの再使用は不可

教科書的には上記の説明になりますが、図を用いてより具体的に解説すると以下の説明になります。

締付け軸力とボルトの伸びの関係
画像引用元:東日トルクハンドブック Vol.8

弾性域は締め付けトルクと回転角の両方で締まる、塑性域は回転角のみで締まる。

さらに分かりやすくいうと、角度締めする前と角度締めした後では締付トルクはほぼ変わっていません。角度で締まっているだけで、トルク自体は増えていきません。弾性域と比較して塑性域では締付け軸力の変化量が少ないためバラツキも少なくなります。

エンジンの内部ボルト等の締付け軸力のバラツキを減らしたい部位に回転角法がよく用いられています。ちなみにそれらのボルトを再使用する際は交換が必須になります。



ウェット環境でオーバートルクになるとは?

オイルやフルード、水分等が座面に付着した状態(=ウェット環境)では摩擦抵抗が減るため、軸力が出ていても、トルクが立ち上がらない状態になります。その状況下で規定トルクまでガンガン締めていくと軸力が出過ぎて結果的に、”オーバートルク”(締め過ぎ)になってしまいます。正しいトルク値を管理するためには締付作業時に、座面を脱脂することがとても重要です。



軸力安定の締付方法とは

ホイールのような丸い物体を均一に締め付けるには千鳥(ちどり)締付けがとても有名ですが、もう一歩進んだ締付方法があります。それは規定トルクに到達するまでのSTEPを段階的に分けることです。

千鳥締付け
画像引用元:東日トルクハンドブック Vol.8
一回目:規定トルクの50%程度のトルク設定値で番号順に締め付け
二回目:規定トルクの75%程度のトルク設定値で同様に締め付け
三回目:規定トルクで同様に締め付け

このやり方については、個人的に参加したKTC(京都機械工具株式会社)主催のトルク講座でも『松・竹・梅』で締めることと同じ内容を説明されていました。自分の車のホイールナットを締め付けることから試してみてはいかがでしょうか。(ホイールだと一回目:55N・m、二回目:83N・m、三回目:110N・mのイメージです)



最後に

トルク管理において大切なことは、設計者が緻密な計算を踏まえた上で設定したトルク値をいかに正確に守れるかです。今一度整備要領書に記載されたトルク値を確認した上での作業を心掛けたいものです。おすすめのソケットレンチに続き、おすすめのトルクレンチについても今後紹介していきたいと思います。

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